5章 リーダーシップ

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この5章は、品質マネジメントと組織の方向性を連動させることを目的にして、トップマネジメントが多方向から経営を眺めることを義務つけている。そのために組織を取り巻くリスクの特定し、評価することを行わねばならない。要求事項は「リーダーシップとコミットメント(5.1項)」、「品質方針(5.2項)」および「組織の役割、責任と権限(5.3項)」より成り立っている。なお、本章の特徴としては、多くの規格文言がAnnex SLの文言を採用していることである。従って、他のマネジメントシステムでも利用できるので、システムの統合が容易に行える利点がある。


 

品質マネジメントシステムに関するリーダーシップとコミットメント(5.1.1項)

 

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顧客のニーズと期待に関するリーダーシップとコミットメント(5.1.2項)

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トップマネジメントの定義は、「最も高いレベルで組織を指揮し管理する個人または人々のグループ」である。注記には、「トップマネジメントは、組織の中で権限を委譲し資源を提供する権力を有している」としている。日本では、通常社長がこれに相当する。ところが、品質マネジメントシステムを企業組織の一部分で構築し運用していることも多々ある。その場合のために、定義の注記では、「マネジメントシステムの適用範囲が組織の一部である場合には、組織の一部を指揮し管理する人がトップマネジメントと称される」となっている。従って、工場長や研究所所長であってもかまわない。

P.F.ドラッカーの「マネジメント 基本と原則」では、「日本企業は強力なリーダーを育てるようには見えない。凡庸なために選ばれ、波風を立てない小心な者を育成する上で理想的に見える。(中略)また最初の25年間はもっはら年功序列によって昇進させられるため、若い者の面倒を見、そだてることこそ、マネジメントの第一の責任とされている」と記述されている。このような日本的なリーダーではなく、品質マネジメントシステムでは、システムの全責任を担い、リスクを評価・選定した上で方針と目標を設定し、品質マネジメントシステムを構成している規範を社員に伝達し、高い品質の製品とサービスを顧客に提供し、顧客の満足度を高めることに率先して挑戦するリーダーが求められている。CD案にはなかった文言がある。「品質マネジメントシステムの有効性の責任をとること」である。早川吉春(編者)「クオリティマネジメントを求めて」(平成9年)には、日本企業がかかえる問題点の一つに「トップマネジメントの責任意識の欠落」をあげている。国際規格を真に理解することの重要性はここにもある。

品質マネジメントシステムとビジネスプロセスとの融合が新たに求められている。ISO9001の認証取得が最大の目標である企業のことだが、品質マネジメントシステムの導入によってビジネス面での成果が見られないというケースがいくつも報告されている。実際行われているビジネスとは切り離して品質マネジメントシステムを維持しているだけの場合が多い。これを受けて、品質マネジメントシステムが業績面での結果を生み出すように改訂が行われた。その一端がここに見られる。

一般企業での中核となる活動は、組織の業種や規模のみならず、製品とサービスの内容によって大きく異なる。製造業ならば、営業、受注、設計、外注、購買、生産、検査、出荷となるだろう。同じような業務はサービス業でもみられるが、中核的な業務として管理しなければならない範疇は広い。品質マネジメントシステムの対象にする業務を何にするかは組織が自由に決めることになる。販売業ならば、人、仕入れと店舗設計かもしれない。金融業は、人と商品開発、情報通信ならば、専門家の養成と開発のための外部委託先選定かもしれない。いずれにしても、人に関係する業務である点では共通している。

これらビジネスプロセスと品質マネジメントシステムを一本化するとは、どういうことだろうか。たとえば、開発部門をとりあげよう。開発のテーマ毎にチームを組んでいることは多くの企業で見受けられる。チームの運用方法は、チームリーダーによって異なることが多い。運用方法が異なれば、成果や開発期間が異なる。これでも経営面で問題が生じないならば、それでよかろう。もし、問題として認知されているならば、品質マネジメントシステムでの取り決められたステップをすべてのチームが採用することで、チームの開発能力を高めることができる場合もある。同じように、営業部門の各支店毎に異なった運用方法が採用されることがある。価格決定の権限が課長にない支店もあれば、支店長以外は価格の決定権がないというような運用は決して望ましいことではない。このような取り組みを行うことが、品質マネジメントシステムの一本化と言える。

「管理者の役割が、彼らの責任ある領域で彼らがリーダーシップを発揮していることを明らかにできるように支援する」は、権限委譲が明確にされていない企業が日本に多い。権限委譲と説明責任を明確にすることだけでも、企業の業績を向上できると考える。権限委譲がなされていない日本企業の遅い意思決定は、世界規模で展開されている事業の大きな欠点である。